その日の歌舞伎町ライブで声が出ないとマズイと言うことで駐車場の車のベッドで寝っころがっていた。
あまり寝付けなかったけど、それも自然の流れと思いままに過ごしていたら、朝別れた○○組のおっちゃんから電話が来た。
おお、○○ちゃんか、どうしたん? 今日行ったらライブは出来そうかい?
と聞いたらきっと出来ると思うよ、と言うので、じゃあ夜に行くね、と言ってもう一眠りした。
夜8時過ぎて、機材とギターをまとめて駐車場から歌舞伎町に向かった。
ヤングスポット(コマ劇場前の広場)に行って昨日の連中はいないかなと探していたら、
狽ソゃんがいた。
昨日は胃が痛いと飲んでいなかったけどみんなと一緒にいた、俺を軽く一回り大きくしたような威丈夫の若者だ。
目に修羅のキツさを漂わせたレスラーっぽい若者。
でも彼はすごく優しい男だとオレは逢ってすぐ分かった。
彼も歌舞伎町の住人だ。
昨日は一度握手をしてあまり話さなかったんだけどちょっと怪訝そうな眼差しで俺を見ていた。
いつもは彼がけんかを止める役なんだとおっちゃんの愛人が言っていた。
昨日の明け方の修羅場にも立ち会っていた彼の、オレを観察している視線を感じていた。
若い女の子ナンパして遊んでいた狽ソゃんに後ろからお疲れさん、と肩を叩いたら、
うわっビックリした、と笑顔で軽く俺の腹をどついて来た。
彼の拳にハートがこもっていた。
オレを友達として認めてくれたんだと一瞬で伝わって来た。
オレもハートをこめて軽くどつき返す。^^
拳というものには、こういうコミュニケーションの力もあるのだ。
殴り合って、打ち解ける力さえある。
拳に込める心の問題なのだ。
男組や男一匹ガキ大将を読んだ事がある人なら想像が付くよね。(笑)
これは剣を交える事にも通ずる。
魂のやり取りさえ出来る奥の深い世界。
相手を滅ぼすための剣や拳は危険な武器に過ぎないのは言うまでもない。
お、楽器持って来たんだ、やれやれえ〜ッ、みんなあっちに居るよとヤングスポットの奥を指差した。
昨日の面々と知らない人達も混じって飲んでいた。
きのうの務所帰りのおっちゃんが、みんなに酒おごってくれているαさんだ、挨拶しなよと言うのでよろしくお願いしますと握手した。
真ん中でやんなよ真ん中で、と言うのでヤングスポットの真ん中にアンプをセッティングを始めたんだけど、
彼らの居るヤングスポットの奥には他に人がいないし、狽ソゃんにどっち向いてやろうかなあと言うと、奥にゃあ彼らしかいないしやっぱあっちでしょうと正面のコマ劇場の方を指すので、
俺もみんなに聞いてもらいたかったから正面を向いてセットした。
CDとか物売っちゃやっぱマズイよねえと○○組のおっちゃんに聞いたら、
近くに何人か居た△△組の人達に話し掛けてくれて、ここで商売やるには△△組の許可が要るんだってよ、ライブやるだけならOKだよと話を通してくれた。
そのすぐあと、△△組の若い兄さんが自分の作ったCD売るのかい?と聞いて来たのでそうだよ、と言うと、
ああそれなら売ってもイイよ、的屋みたいに出来合いのもの売ったりしなきゃいいんだよと言ってくれたので、そうなんだありがとう、と笑顔で言うと彼も笑顔を返してくれた。
清々しい笑顔だった。
また一つ気持ちが繋がった気がした。^^
9時位はコマ劇場の大スクリーンの音楽やパチンコ屋の騒音がうるさくて、アンプ無しでやっても周りにゃ全然聞こえない。
後ろで飲んでいた何人かも前に回って来てくれて、アンプを一個全開にして正面に向かって歌い出した。
騒音の中集中がし切れなかったけど、出来る限りの気持ちを入れて6曲歌った。
知らない人達も周りで聞いてくれていた。
とくに失敗もなく歌い終わった後前を見ると、飲んでいた例の連中はきれいに居なくなっていた。
なぜ居なくなったのか、その時は見当も付かなかった。
おそらくコマ劇場に近い所ほどスクリーンの音と混じっちゃってまともに聞こえなかっただろうなあと思いながら、
ヤングスポットのコマ劇場側に屯して聴いていた人達の所に行って、持ってきたチュウハイを周りの初めて合う人達に勧めながら、ちゃんと聴こえてた?とか話をしていた。
たまたま隣に居た知らない何人かと飲みながら歌どうだった?とか話をしたら、
ずっと聴いてた、イイ感じだったよと40前後のキリッとした顔の人が言ってくれた。
しっとりした感じの哀愁系の曲が多いからねえ、と言うと、
俺みたいな年代の人間はああいう歌がいいねえ、と音楽の話が始まった。
俺の曲はメロディーは歌いやすくても、コードとかかなりアクロバットな使い方してるので
玄人は面白がってよく聴いてくれるんだけど、素人さんは最初感覚がつかめなくて第一印象をあまり感じない人も多い。^^;
それでも3回位聴くとその味がわかって来るみたいで、馴染むとスルメ状になる人も多い。
ジャズ系の音楽を聴いて来た人にはすぐその雰囲気が伝わる。
そのあにさんはけっこう音楽聴いて来た人のようで、話したら年もおんなじで意気投合してしまった。^^
ζって言うんだ、元やくざだよ、今は普通に仕事してる。
俺はZAKIだよろしくね、と話している所に、居なくなっていた連中が戻って来た。
どうやらカラオケに行っていた様だ。
歌っている最中にみんなでカラオケに行ってしまった訳は、ずっと後で分かった。
その後、その件でブン殴られる寸前まで行くのであった。
その3に続く、、
この物語りはフィクションです。
全ての登場人物は現実の団体とは一切関係ありません。