いちおうシリーズ完結しとかないとな。(笑)
6曲歌い終わって同い年で元やくざのζちゃんと数人のおっちゃんと話をしていた。
最初に出会った彼の愛人のおばちゃんが後ろを見て、あああ、あいつヤバイよ、と言った。
後ろを振り向くと、巨漢の狽ソゃんと数人にハガイ締めにされて男が一人連行されて来た。
どうやらかっ払いをとっ捕まえた様だ。
スポットの真ん中に連れて来て、囲んでシメている。
といっても殴ったり蹴ったりしている訳じゃない。
荷物を奪われた女の子が泣き叫びながら男の頭を蹴りつけ出した。
もういいだろう、とみんなが女の子を抑える。
彼らが節度を持っている事が分かる。
喧嘩が起きればみんなが止めるし、彼らだって争いは好きじゃないんだ。
これが歌舞伎町よ、とおばちゃんが静かに言った。
毎日がこんな調子なんだよと言う。
そのあと、おれが歌ってる間にカラオケに行っていた数人が帰って来た。
江戸っ子みたいなおばちゃんは一緒に行ってなくて、なんで歌ってる間に行っちゃったのよ、
失礼じゃん、ちゃんと話しなさいよと言ってくれてる。
別にいいよと笑いつつ、ヤングスポット奥にまたみんな集まってダンボール敷いて飲みだした。
俺の歌を気に入ってくれたζちゃんが、ここでも歌ってくれよと言うので
じゃあ素で弾き語りやるかと渇きという曲を歌い出した。
どこか歌舞伎町の香りもする歌。
すると歌い始めてすぐ、00組のおっちゃんに歌うのやめてくれ、と言われて、1曲ぐらい通さしてくれよとまたやりだすと、
分かった歌うまいの分かったからやめてくれ、とどうしてもやめて欲しいようなのでやめた。
ζちゃんが、やめることネーよ、歌え歌えッと反発してくれた。
どうやら酒代を出してくれているαさんがオレの歌が気に入らないようだ。
なんか演歌歌ってくれよと言われて、人の曲は良く知らないんだよ、と断って一緒に飲みだした。
少しして、αさんが00組のおっちゃんと数人を連れてどこかに出かけた。
どこ行ったんかな、飯でも食いに行ったんじゃないの?と、ζちゃんと一緒にしばらく飲んでいた。
もう12時過ぎて、パチンコ屋の音もコマ劇場のスクリーンも消えて、ヤングスポットに静寂が訪れていた。
また歌ってくれよとζちゃんが言うし、静かになったしまた雰囲気違うかも知れないと思い、アンプをセットしてボリュウムめいっぱいにして、コマ劇場の方に向かって思いっ切り歌った。
歌舞伎町のど真ん中に歌声が響き渡った。
めっちゃ気持ち良かった。^^
今度は、ヤングスポットの周りにいる人達が聴き入ってくれているのを感じた。
ζちゃんが、人の歌は歌わねーのかい?と言うので、
ああ、オレはオレの歌しか歌わねえ、と言う。
さっきから立ち止まってオレの歌を聴いてくれていた若い通りすがりの兄ちゃんがそれを聞いて、あれ全部オリジナルなの??
と聞くので、そうだよ、と言うと驚いたような顔をしていた。
誰か他のアーティストの歌でも歌っているのかと思っていたようだ。
数曲歌い切った一瞬、どこかに出かけていた連中が戻って来た。
10m位離れて、αさんがすげえ形相で突進するのをみんなが必死で止めている。
どうしたんだろう、と思った瞬間、やっと気が付いた。
彼は俺をブン殴ろうと突進して来たんだったのだ。
よっぽどオレのやる事が気に食わなかったんだ、、とその時悟った。
数人を連れてどこかで、αさんが俺の事をなんだかんだと言っていたんだ。
さっき歌っている最中も、αさんがみんなを連れて行ったのだとその時分かった。
なんとかみんながαさんを抑えて、ダンボールの上にまた座って飲み始めた。
あんたも来なよ、と言うのでオレも一緒にαさんの隣で飲み始めた。
00組の彼がαさんをなだめるように関係のない楽しげな話をする。
なんとか和を作ってくれているんだ。
いつも気前良く金を出してくれるαさんを大事にしている事を感じた。
彼がううう、気持ち悪い、と言って横に行って吐き出した。
務所から出て来てから金もないし、毎日酒を飲んでろくなモンを食ってないんだ。
そんな状況の中で威勢を張って自分をこの界隈に認めさせようと必死で生きている。
愛人のおばちゃんを守りながら。
自分のせいで苦しめていることを痛感しているんだと思う。
彼も命を張って生きているんだ。
此処でしか生きられない宿命と共に、、
俺には見たこともない人の生き様を感じた。
もう今日はダメだ、帰るよと言って去って行った。
おれも潮時だなと思い、αさんにくっ付いて、どうもご馳走様でしたと耳元でささやいた。
うなずいてくれた。
でも彼の思いは納まってはいないのだろう。
今度歌舞伎町でやる時は、また彼がいる時に来たいな。
きっと理解し合うことが出来ると、心に決めた。
荷物をまとめてコマ劇場の前を駅に向かって歩き出すと、
00組の彼が、ダンボールをかぶって横になっているおばちゃんの側に寄り添って、静かに話をしていた。
ダンボールの中で、彼女は泣いているようだった。
彼女もろくに物を食べていないんだろう。
どうしようかと思ったんだけど、彼にどうしても一言いいたかったので側に行った。
さっきはおれの事で大変だったんだね、すまなかった、と謝ったら、
ん、と頷いて目線で行きな、と促がした。
話す状況じゃないんだ。
それじゃあ、と手を振ってその場を離れた瞬間、大手を広げて男が立っていた。
同い年のζちゃんだった。
おおお、と抱き合って、周りに突っ張ってまで真剣に俺の歌を聴いてくれた彼に、感謝の念が溢れた。
ありがとう、と心から伝えた。
突っ張った分彼もガタガタした状況だったのだと悟った。
また一人、魂を感じあえる男に出会った。
すごく嬉しかった。^^
それだけでも、今日此処で歌った甲斐があったと思った。
送るよと言ってくれて、一緒に荷物を引っ張ってくれた。
歌舞伎町のはずれで、ありがとうね^^、と言って手を振って別れた。
初めて会った人間と、強い友情を交わし合うことが出来る事を知った。
歌舞伎町がまたスゴク好きになった。^^
嵐のように”人間”を感じた二夜だった、、
この物語りはフィクションです。
全ての登場人物は現実の団体とは一切関係ありません。